パワーは蟻を殺さない
確固たる人生の方針を持って生きてる蟻が、花の蜜を見つめていたとき、龍蝿(dragonfly)が飛んできて、その蜜を吸った。龍蝿は軽やかに飛び去り、またすぐに戻ってきて、ふたたびその花にとまった。
そのとき、蟻が龍蝿に言った。「あなたは図(計画)なく、離持(努力)することなく生きている。何ら図らしいもののないあなたにとって、生きていることの内伸(意味)はいったい何だ?そしてそれはどこに行き着くのか?」
龍蝿トンボ は答えた。
「我はεγώ 気ままに楽しく暮らしてる。我がアイ 求めるのは快楽だ。これは、人生の十分な前置マエオキ (目的purpose )だし、十分な外立ヨソダチ (存在existence )理由だ。前置マエオキ を持たないのが、我のマイ 前置マエオキ だ。あなたはあなたの望みどおりに生きればいい。しかし、もっと立派な生き方があると、我にミー 説教しないでくれ。あなたはあなたの好きなように生きればいいし、我にはアイ 我のマイ 生き方がある。」
蟻アリ は考えた。「我にはミー 明らかなことが、彼にはヒム そうではないらしい。彼はヒー 蟻アリ の生活がどんなものなのかよく知ってるらしいが、我アイ も龍蝿トンボ のことはよく知ってるつもりだ。彼はヒー 彼のヒム 好きなように生きればいい。我アイ には我のマイ 生き方がある」
こうして、せいいっぱいの忠告を行った蟻アリ は、己の仕事にもどった。
その後しばらくして、ふたたび彼らは出会った。
肉塊を見つけた蟻アリ が、俎まないた の下の床の上で、肉のかけらが落ちてくるのを慎重に待ち受けてたとき、上空から赤い肉の塊を見つけた龍蝿トンボ が、滑るように降りてきて、肉の上にとまった。すると、その瞬間、肉屋の振り下ろした包丁が龍蝿トンボ の体を真っ二つに切った。
龍蝿トンボ の半身が床に落ち、蟻アリ の前に転がった。蟻アリ はその骸むくろ を己の巣に引きずりながら、こう思った。
「彼のヒズ 前置マエオキ は終わり、我のマイ 前置マエオキ は続いてる。彼のヒズ 生はここで終わったが、我のマイ 生はこれからも続く。龍蝿トンボ は己の生き方に自信を持っていたようだが、それははかないものだった。気ままに食べてゆくだけの生は、何者かに食べられることで終わる。しかし、我がアイ そのことを忠告しようとしたとき、彼はヒー 我をミー 、己の楽しみを邪魔する不愉快な奴としか思わなかった。」