四騎士のステンドグラス
私は見た。見よ。青ざめた馬であった。これに乗っている者の名は死といい、そのあとにはハデスがつき従った。彼らに地上の四分の一を剣とききんと死病と地上の獣によって殺す権威が与えられた。━━『ヨハネの黙示録』六章八節
Καὶ εἶδον, καὶ ἰδοὺ ἵππος χλωρός, καὶ ὁ καθήμενος ἐπάνω αὐτοῦ, ὄνομα αὐτῷ Ὁ Θάνατος, καὶ ὁ ᾅδης ἠκολούθει μετ’ αὐτοῦ, καὶ ἐδόθη αὐτοῖς ἐξουσία ἐπὶ τὸ τέταρτον τῆς γῆς, ἀποκτεῖναι ἐν ῥομφαίᾳ καὶ ἐν λιμῷ καὶ ἐν θανάτῳ καὶ ὑπὸ τῶν θηρίων τῆς γῆς.
メイド・イン・アビス!
我は聖書と神話とチェンソー好きのヒストール、よろしくね。
これは『チェンソーマン』のドア🚪「地獄」考察と言うより、
聖書と七つの「地獄」紹介。タイトル通り「学習」。
これは直のチェンソーマン話でなく舞台裏や背景を知るもの。
読者向けでなく、作品をつくる側向けの記事かも。
難しい話なので読み通した人に拍手を👏👏👏👏👏👏👏
前回記事の続き。
tenfingers.hatenablog.com
アバドン(Ἀβαδδών、אֲבַדּוֹן)。🚪の地獄。
タルタロス(ταρταρόω)。👼の地獄。
エレツ(אֶרֶץ)。第一目の方。地獄以前の地獄。
シェオール(שְׁאוֹל)。👄
ゲヘナ(γέεννα、גֵּֽיא־הִנֹּֽם)。🔥の谷の地獄。
ハデス(ᾍδης)。⛪の下にある地獄。
アビス(ἄβυσσος)。🕳の地獄。
本誌ネタバレ注意。
前回は、
あるドア🚪
・地獄とはあるドア🚪「ד」を含むもの。アバドン(אֲבַדּוֹן)。
・地獄とは地の下の「マグマ(מָצוּק)」を知った者の話。
・『創世記』1章・第一日目の「地(אֶרֶץ)」が地獄スペースになった。
・チェンソーマンの力は地獄側でも悪魔側でも電ノコでもないよね。
という地獄の基礎話だった。
まず、チェンソーマン世界における地獄から語りはじめよう。
悪魔は輪廻転生する
世界で死んだ悪魔は地獄で蘇り、
地獄で死んだ悪魔はこの世界に出てくるらしい。
また地獄は基本的に人がいない草原のようだった。
つまりチェンソーマンの地獄とは、人を罰する場でなく、
悪魔の居場所でこの世界と往復できるところ。
ペルソナ3のタルタロス
地獄と言うと、今の日本人はまず聖書を連想するだろう。
しかし、日本語訳聖書を読んだ人は知る、伝統諸派の訳によっては、
地獄という言葉は聖書で一回しか使われていないと。
すなわちタルタロス(Τάρταρος)だ。
下手をすれば、タルタロスが聖書にあることを知らないとか、
ギリシャ神話のタルタロスを知らず読んだことがないとか、
そんな人がいるかもしれない。
ペトロの手紙ニ 02章 04節より
聖書協会共同訳
(カトリックとプロテスタントの共同訳。2018年12月からの新しい版)
神は、罪を犯した天使たちを容赦せず、暗闇という縄で縛って地獄に引き渡し、裁きに向けて閉じ込められました。
新改訳聖書(プロテスタント訳)
神は、罪を犯した御使いたちを、容赦せず、地獄に引き渡し、さばきの時まで暗やみの穴の中に閉じ込めてしまわれました。
Εἰ γὰρ ὁ Θεὸς ἀγγέλων ἁμαρτησάντων οὐκ ἐφείσατο, ἀλλὰ σειραῖς* ζόφου ταρταρώσας παρέδωκεν εἰς κρίσιν τηρουμένους,
ここの地獄は「Τάρταρος」の動詞形「ταρταρώσας」だ。
タルタロスはギリシャ神話のウラノスが我が子らを捨てたところ。
そこは高貴で力ある者を閉じ込めておく特別な牢獄として使われ、
人間や並の人外はいない。そして元々どんな場か隠されたところ。
パウロ文書で一回のみの語。クリスチャン間でも有名でない。
堕天使専用の牢獄。ダンテの『神曲』なら最下層の嘆きの川辺りか。
絶望感がすごい
『チェンソーマン』におけるタルタロスのポジションは、
【銃の悪魔なんかよりずっとずっとヤバい…根源的恐怖の名前を持つ悪魔達】
の居場所だろう。超越者達の視線だけで悪魔は錯乱し魔人は自殺を望む。
地獄オブ地獄。
ヤコブの手紙3章3〜6節
次の地獄はゲヘナ(γέεννα、גֵּֽיא־הִנֹּֽם)。
クリスチャンでヘルと言えばまずこれ。
『ヤコブの手紙』3章3〜6節より。
聖書協会共同訳
馬を御するには、口にくつわをはめれば、その体全体を操ることができます。(3節)
同じように、舌も小さな器官ですが、大言を吐くのです。見なさい。いかに小さな火が大きな森を燃やすことか。(5節)
舌もまた火です。舌は、私たちの体の器官の中で、不義の世界を成しています。それは体全体を汚し、人生の歩みを焼き尽くし、自らもゲヘナ(γέεννα)の火によって焼き尽くされます。(6節)
火の馬の形した地獄の悪魔を舌により、口にくつわをはめ(契約し)、御し操る。
舌を使った者たちも焼き尽くされる(死ぬ)。これは引用元そのまま。
元のヘブライ語、ゲー・ヒンノームは、ヒンノームの谷(ゲー)の意。
これがエラダ(ギリシャ)語のゲーエンナでは、
「人が独りだけで行き出られないところ」の意を持つ字で表された。
ゲヘナ。古語かつ翻訳をはさむので大分なまっている。
福音書の初出はイエスが「火のゲヘナ」と火に関する場として語った。
福音書に11回、『ヤコブの手紙』に1回、出てくる。
地獄とも訳されるハデスと、四騎士の「死」は、
黙示録において火の池に移されるので、火の優位性は大きい。
この火はゾロアスター、アヴェスターの火の影響がとても強い。
世界の終わり(終末)、人類復活、総審判、救世主、救世主の槍、
救い主の白馬、善神と悪神(天使と悪魔)、終末における天国と地獄、
終末において世界を浄化する火などはゾロアスターが発端。
『チェンソーマン』が使う黙示録はアヴェスター理解が必須。
さらっと三騎士を消し去ろうとする
次の地獄は四騎士の「死」に従うハデス(ᾍδης)。
支配の悪魔は、同じ騎士の死の悪魔を消そうとしてるから、
ハデスは地獄の悪魔と別名(冥界や冥府や陰府)で出てくるかもしれない。
ハデスの扱い…
ギリシャ神話において、ハデスはゼウスやポセイドンに並ぶ者。
ハデスの従う者が「死」だ。黙示録ではニ者があべこべに。
眩い男オデュッセウス
神話でオデュッセウスがハデスに捧げものをするシーンがある。
ハデスは極端に出番が少ないものの、素晴らしい名前で無視できない者。
福音書におけるチャーチ⛪は、 ハデスの門に下らず負けない場とされる。
チャーチと結びつきが強い者は死んでもハデスに行かないと。
またハデスは悪い金持ちが行くところで、悪い街が落とされるところ。
ヘブライ語聖書における地獄シェオール(שְׁאוֹל)は、
『チェンソーマン』と絡めて話しにくいのでパス。
たぶんチェンソーマンの正体に直結する地獄、
アビス(ἄβυσσος)はさらに別記事が要る。
さわりのさわりだけでも、
聖書の地獄は種類や情報量が多い。
「地獄」という翻訳さえうかつに使えない。
「わからないことがわかる」が最大の収穫🌾で、
「わからないことがわからない」は最低の収穫。
わかったつもりが消えて減ればこれ幸い。
この記事が作品をつくる側の刺激になれば我は嬉しい( ´∀`)
これで聖書やアヴェスターへの興味がかき立てらたなら我は嬉しい( ´∀`)
この記事を読み通した人に改めて拍手を👏👏👏👏👏👏👏